しかし、戯言。

ぐうたら社会人がぐうたら思ったこと

日々が愛おしくなる舞台、「わが星」。

5月23日。就活を終えた私は、中央線に乗って三鷹まで。そもそもつくばに住んでいると、中央線で新宿より先に向かうことも無いので、初めて見る景色にソワソワしつつ、電車を降りて15分程歩く。夕暮れ時、今時そんなに見ないよってくらい幸せそうに手をつなぐ男女の姿をスーパーの近くでたくさん見かけつつ、向かった先は三鷹市芸術文化ホール。これを見るため。

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初演時には、第54回岸田國士戯曲賞を受賞し大きな話題を呼んだままごとの舞台「わが星」。今回は再々演。Twitterでフォローしている方々からの評判がとにかく良く、リピーターもとても多い公演で、きっと見た人の心にとても残る舞台なのだなと期待して観劇。学生だと安く見れるのもありがたい。

で、この舞台、本当に良かった。上映時間は90分と比較的短いのだけど、その中に凝縮された1分1秒がとても濃く、見ている側にぐっと迫るものがある。そして、自然と見ていて涙が出てくる。何なら舞台が始まり、詳しく物語が展開する前から、すでに泣いてしまう。普通泣いちゃうものって、明確な「泣かせ」の仕掛けがあって、それに揺さぶられる*1のですが、この作品はそういう仕掛けを感じさせない、本当に自然と見ていてスッと涙が出る。それは、きっと、この舞台が描いている物語の普遍性、そして、その世界を昇華させる仕掛けのおかげなのではないだろうか。

まずは「普遍性」。この舞台のストーリーは、どこにでもある普通の人間の生活が軸だ。ヘンテコな性格の人間が出てくるわけでも、誰かが殺しをやるわけでもない。ここで描かれているのは、姉妹、友達、家族、憧れ、すれ違い、別れ、誕生、滅亡、星。多感な時代を過ごした僕らなら、きっと一度は感じたことのある「あの」気持ちだ。それが、誰でも分かるような形で、ストレートに表現されている。

しかし、この舞台が凄いのは、後者の「仕掛け」である。この普遍性だけならば、ありふれた演劇、何ならば学生演劇でもありそうなもの。でも、この舞台はそこに天才としか思えない仕掛けをプラスする。これが、正直事細かに説明してしまうと、初めて見たときの感動を削いでしまうので、言える範囲で簡単に言うと*2、この家族の物語は、宇宙の誕生から滅亡までを描き出しているのだ。・・・え、何のこと?と思うに違いない。しかし、この舞台は、家族の人間関係と宇宙が密接に関わっている。こう書くと小難しい舞台なのではないか、頭をうーんうーんと悩ませて見ないといけないストーリーなのではないか、と勘違いされそうだが、決してそんなことはなく、自然に読み取ることができるものなので安心して欲しい。そして、何故自然に読み取ることができるのか。これには、きっと「音楽」の力が大きく影響している。この公演は口ロロの「00:00:00」(大名曲!)をベースに展開していくのだが、これがとにかく良い。このトラックに合わせて、ラップのように言葉と言葉が重なっていき、登場人物たちが自由に動き回る。 この姿が物語をより立体的にし、見ている者に伝わりやすい形とするのだ。その結果、私たちにとって、登場人物たちの言葉は特別な力を持って昇華される。

everyday is a symphony

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 他にも、この舞台には見たものをワクワクさせる演劇的な仕掛けが沢山仕掛けられている。きっと、劇場に入った瞬間から驚かされるだろうし、開演前のアナウンス、開演してからの舞台装置、言葉遊び、そして、そっと終わっていくラストまで、演劇が難しい、と思っている人でも、見終わった頃にはきっと心を掴まれているような楽しさが満ち溢れている。

いや、しかし、この舞台は本当に言葉にするのが難しい。というのは、言葉にするのが野暮と思えるほど、生で見ないと分からない説得力に溢れているからだ。なので、言えるのはとにかく一度見に行ってほしい、ということ。まだピンと来ない方に、この舞台を簡潔に言い切るならば、普遍的な人と人のつながりを、音楽や台詞回し、突飛な設定で綺麗に描き出す、演劇だからこそできる、そんな貴重な瞬間が続く作品。劇場を出た瞬間から、当たり前に続く日常がどこか愛おしくなり、駅へ再び歩くまでの時間、すれ違う人々の顔すらもなんだか特別に思えるようになる。本当に素敵な作品なので、時間を見つけて是非見に行ってください。できれば、大切な人(同性でも異性でも)と見に行くと、いい時間が過ごせますよ。

うーん、もっといい書き方できたような気もする。でも、本当に圧倒的な作品を見たときって、うまく言葉にできないんだよな。蛇足になるけど、もう少し付け足すならば、生きるってことの喜び、そして、いつか待つ死ぬまでのことをきっと感じされられます。

わが星 『OUR PLANET』 [DVD]

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 以下、見た人だけに伝わるメモ。見てない人は見ちゃダメ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に見たんですよね?見た人だけ、この続き見てくださいよ!

・個人的にはちーちゃんと月ちゃんの2人の関係。タイムカプセルからの手紙を読み上げるシーン、そして、ミラーボールが舞台を照らす瞬間。あれは本当に泣いちゃいましたね。「仕掛け」として、しいて挙げるならこの部分なのかな。

・あと、父さんと母さんの日常を歌うシーン。それぞれ単体で見ていても、なぜだか泣けてくるのですが、それが重なった瞬間の愛おしさといったら!あれ本当素敵だったなぁ。

・もちろん、ラストも素敵。最後の2人が出会うシーンですね。終わりと始まりがつながるような、そんな瞬間。そして、最後に電気が消えてシーンと客席を沈黙がつつむ。瞑想じゃないけど、色んな90分間の気持ちが自分の中でぐるぐるするのを感じたな。

・というか、円になって歌いながら歩くシーンで、もう泣いちゃうんですよね。何でだろう。クチロロのあの音楽がめちゃくちゃ良いからなのかなぁ。ホント好き。

・ということで、もう一回見に行きたいくらい。

*1:で、その仕掛けがバレバレだと興醒めしちゃうようなお涙頂戴ストーリーになるわけですけど

*2:できるならばこれすらも読まないで、僕を信じて三鷹まで向かって欲しいですが・・・。